スーパー残酷物語≪麻薬スラング講座≫

「13日の金曜日」は、実際呪われている。

 
前回は当スーパーマンが翻訳中に、我らが大先輩である清水俊二先生が亡くなった。その前はやはり「13金」の初号プリントの試写を終えた翌々日、一緒に見たUIP映画の制作担当N部長が“急死”した。

 
今回は何も起こらなければいいが・・・。近々、近所の神社にお祓いに行くつもりでいる。今も両手を合わせ、無事を祈りながら、これを書いているのだ。

 
ところで、ホテルにカン詰めになったのは近々発売されるビデオ「ウッドストック」の翻訳のためでもある。

 
愛と平和と音楽の祭典。ピースマークやヒッピーたちも今や昔だが、当時から変わらず若者たちに人気がある(?)のがロックとマリファナ。そこで今回はドラッグに関するスラング(俗語)講座。

 

麻薬の総称は“dope”(ドープ)。最近流行の“ドーピング”と同じ単語。

 
マリファナは“grass”(グラス)。草。麻の葉っぱのこと。

 

ハッシッシは“shit”(シット)。茶色のかたまりでウンコみたいだから。

 

LSDは“acid”(アシッド)。強烈すぎて、最近はすたれたようだ。

 

コカインは“coke”(コーク)。白い粉なので“snow white”(白雪姫)なんて呼ばれたりもする。

 
覚醒剤は“speed”(スピード)。これをやって気分よくなることを“get high”(ゲットハイ)、

トロンとしてしまうのを“down”(ダウン)という。

   
仕事をしずぎて、すっかり落ち込んでいるのもダウン。当スーパーマンもホテルで、まさにダウン寸前だ。

  

  

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。

スーパー残酷物語≪呪われたジェイソン≫

読者の皆さんが映画館で見る字幕入りフィルムを作る前に“初号品”といって、最初にスーパーマンが訳した字幕を打ち込むフィルムがある。

        

この初号品を映画会社の制作担当者や翻訳者が一緒に見て、画面に合わないセリフやヘタクソな(?)セリフをチェックしたり、直したりする。

       

バックが白くて白ヌキ文字が読めないケースもある。そういう時は右端から左端へ移す。完成品は20日まで。この初号プリントはどんなに遅くても15日までに仕上げねばならぬ。そのラボの作業にはザッと一週間はかかる。となると翻訳は、8日にはできてなくては困るというわけだ。

     

まさに呪われた「13日の金曜日」ではないか!

       

3日にフィルムが届き、4日に即見たとしてもしめきりまで4日間しかない!

英語台本がなければ、ヒアリングで台本を作る必要もある。

こんなムチャクチャなスケジュールがはたして可能であるかどうか、ハタと困った。

一時間半以上もある映画をまるまる一本訳すんだぞ!

     

だが、そこには不可能を可能にするスーパーマン。

弾丸よりも速く訳し、機関車より強いド根性でやってみる。

いわんや、相手はたかが殺人鬼ジェイソンだ。

肉切り包丁で何人若い女の子を殺そうと、セリフはまるで発しない。

脇役たちは別にして、主人公にセリフがなければ翻訳なんてへのカッパだ。

さあ、矢でも鉄砲でも肉切り包丁でも持ってこいてなもんである。

      

というわけで、実際に映画を見れたのが4日(金)の夜。

土曜と台風13号来襲の日曜も返上して、まさに嵐の如く2日間で翻訳を終えてしまったのである。

    

  

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。

スーパー残酷物語≪公開日は神様です≫

スーパーマンは今、マントをはがされて、東京の某ホテルの一室にカン詰めにされている。秋口から来年にかけて公開される映画の字幕作成のしめきりに間にあわないのだ。

 

大体、字幕スーパーの翻訳ってのは、どんなスケジュールで、どんな早さで行われているのか・・・。まず、異常な例からお話しよう。

  

8月2日、机上の電話がけたたましく鳴った。UIP映画から呪われた年中行事(?)である恐怖シリーズ「13日の金曜日パート8」の翻訳依頼だ。

  

フィルムはまだ日本にない。翌日到着の予定だという。英文の台本もない。

ところが、映画の公開は9月2日に決まっているという。

  

公開日は神様だ。スケジュールはそこから逆算して作られていく。ところが、これは“先行オールナイト”をやるという。公開一週間前、各地の主要劇場で一晩だけのオールナイト興行だ。これが8月26日。

  

すなわち、その日までに全国の上映館に字幕の入ったフィルムが配られていなければならない。

  

発送にも何日もかかるから20日くらいまでには上映に必要な本数(「13金」の場合は50本)全部フィルムに字幕が入っていなければならない。このフィルムをプリントする現像所も当然、突貫作業になるというわけだ。

  

  

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。

アメイジング・スパイダーマン

6/13 アメイジング・スパイダーマン ワールドプレミア

 「アメイジング・スパイダーマン」のワールドプレミアへ行ってきました。アメリカ大作映画のワールドプレミアが日本で行われるなんて前代未聞。

   

主演のアンドリュー・ガーフィールドやエマ・ストーン、監督やプロデューサーまでとても華やかな顔ぞろえで我々を楽しませてくれました。

  

ところで実はこの作品、僕が字幕翻訳をしたのですが、完成版の映画を見るのはこのワールドプレミアが初めてだったんです。

  

映画の翻訳者が、完成した映画を見ないまま翻訳を終わらせちゃうなんて。でも最近はセキュリティの問題や、デジタル上映のテクニカルな問題などで、こういうことが徐々に起こり始めました。

翻訳者受難の時代の到来です。

    

翻訳用の画面は色がついていないから、セリフで” You seriously think I’m a cop? Cop in a skintight red and blue suit. “  なんてセリフが出てきても、彼が本当に“red and blue”の服を着ているかどうか分からない。

  

だからそんなセリフは省略。そして、あんなセリフも省略、こんなセリフも省略と、あちこちの字幕をOUT(省略)にしたら、今回はとても字幕がスッキリして読みやすかったなんて、うっかりお褒めの言葉をもらっちゃいました。

  

スパイダーマン第4作目、絶対この続編もありそうですよ。

 

 

「アメイジング・スパイダーマン」 予告編

  

6月23日(土)、24日(日)世界最速3D限定先行上映決定!(一部劇場を除く)
6月30日(土)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国公開!

20文字の制限について≪エルヴァイラ登場≫

さて、最近アメリカでホラーといえば必ず話題にのぼるのが、ホラーの女王“エルヴァイラ”Elviraだ。来日してテレビや雑誌などでも紹介されたから、ご存知の方も多いと思うが、87・54・87という挑発的なボディと、黒柳徹子ばりの(?)悪魔的なメイクアップ。

 

アメリカのテレビのホラー映画番組のホステスとして、人を喰ったセリフで怪奇映画の解説をし、イカれた人気を博しているのだ。

  

このエルヴァイラ嬢が、自分で主演したのがホラー・コメディ「エルヴァイラ」。

  

8月いっぱい、東京では新宿の“トーア2”で上映している。で、この字幕も担当したのだが、翻訳はずいぶん気楽にやらせていただいた。普通、コメディは文化や言語の違いから、ジョークがジョークとして通らないから、スーパーマン泣かせなのだが、これは軽いノリの単細胞的ジョークばかりで、英語をほぼそのまま日本語に直して通用した。

 

さて、映画「エルヴァイラ」より英語のレッスンタイム。

 

“I am going to tie your weenie in a granny knot!”

 

I am going to~は、“~するわよ”。 tie your weenieは“アンタのチンチンを結んじゃう”

 

weenieはウインナ・ソーセージのことで、デレっと垂れたチンポコをそう形容するのは、

アメリカも日本も同じ。最後のgranny knotは辞書には男結びなんて書いてあるが、

どんな結び方だったかはよく覚えていない。

 

このセリフはエルヴァイラが彼女にエッチしようとした男につく悪態のセリフ。

読者の皆さんならどんな字幕にするか。一行10文字×二行=20文字の制限つきだ。

  

“あなたのウィンナを男結びにしちゃうわよ”では、直訳すぎて、面白くないし、第一ピンとこない。

当スーパーマンは、“チンをチョウ結びにしてやるわ”としておいた。

話が怪談から転げ落ちて、また下半身のことになってしまった。でも映画は面白い。

おヒマだったら一度見て下さい。

 

  

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。

20文字の制限について≪無口なジェイソン≫

当スーパーマン、初期の頃、洋画ポルノをだいぶ手がけていたが、そのうち流行のホラーの仕事がきた。泣く子も黙る(?)「13日の金曜日」シリーズの三作目。

 

これは劇場で偏光メガネをかけて見る3D(立体)映画だったが、この3Dの字幕というのが、ヤッカイなのだ。

 

3Dの仕組みと字幕の関係は、専門的になるので、ここでは詳細を省くが、要するに、一つの画面(コマ)の半分しか字幕を入れられないのである。

 

そこで普通はタテ10行×二行でセリフを作るのを、ヨコ一行、しかも12字で作れというのだ。

これは至難のワザだ。

 

「冗談じゃない。俳句だって、五七五=17文字あるんだぜ」

 

20字だってかなりの制限。それを12字とは、文句の一つもいいたくなる。

たとえば“クリスがジェイソンに殺された”これをアナタ、12文字に縮められますか?

 

幸い(?)、主人公のジェイソンは黙々と血しぶきをあげて人を殺すだけで、セリフは吐かない。

セリフがなければ字幕もないわけで、スーパーマン、何とかこの仕事をこなすことができた。

 

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。

20文字の制限について≪“ファック”第一号≫

当たり前だが、夏は暑い。昔、日本は今ほどリッチではなかったので、

涼をとるにはウチワにスイカ、映画館で四谷怪談と決まっていた。

         

この怪談というやつ、けっこう怖く、お岩さんの髪がゾロリと抜けたり、目が崩れたりすると、冷房なしの映画館でも背筋ゾクゾク、体の底からゾッ~っと冷気を感じたものだった。帰りにカキ氷でも食べれば、その日の暑さなんて、吹っ飛んでしまった。今、お岩さんはどこへ行ってしまったのだろう。

   

そして時移り、スイカはメロンになったように、怪談が横文字になってヒットしたのが「エクソシスト」だ。

 

コワーイことが大好きなW・フリードキン監督のオカルト映画で、悪魔がのりうつった少女が、突然立ったまま放尿したり、緑色のヘドを吐いたり、悪魔祓いにきた神父に「カント」とか「ファック」とか、ヒワイな言葉をあびせかける。当時「ファック」はポルノ映画でも禁句だったが、これを堂々と字幕にお使いになったのが、その頃、映倫審査員でもあり、字幕界の超スーパーマンだった高瀬鎮夫先生。

  

おそらく「ファック」の字幕登場第一号ではないだろうか。

 

  

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。

ヒワイな言葉と映倫審査≪私のケツに指を突っ込め≫

今から17年ほど前、西洋の亀頭アタマ、マーロン・ブランドが主演した「ラストタンゴ・イン・パリ」という映画があった。ブランドとフランスの大スター、ダニエル・ジェランの不義の娘、マリア・シュナイダーが全裸になってファック・シーンをくりひろげ、「エロか芸術か」 「エロは芸術か」の大論争を世界中に巻き起こした、ベルトリッチ大監督の、センセーショナルな映画だ。
 

当時、ブランドが自分の一物にバターを塗って彼女をバックから責めるのが大変話題になった。だが画面のトリミングとモヤモヤ霞の修正版で、我々観客は赤外線的想像力で、そのモヤモヤの向こう側を透視せねばならなかった。これが昨年、リバイバル公開された。その時、昔の日本語翻訳台本が見つからず、当スーパーマンに再翻訳の仕事が回ってきた。

  

舞台はパリ。男はアメリカ人、相手はフランス娘。

台詞は英語とフランス語の半々で、机の右に英語、左にフランス語の辞書を置いての大奮闘である。

二人の交わす台詞はエッチとスケベのオン・パレード。そこに「右手のツメを切れ。その2本だ」「切ったわ」とあり、続いて「指を私のケツに突っ込め。私のケツに突っ込むんだ」とあり、この字幕が映倫審査の先生のチェックにひっかかった。一般公開で、この台詞はふさわしくありませんてわけだ。とはいえ、原語でブランドはハッキリそう言っている。困ったことになった。

  
「もう少し穏やかな表現になりませんか?」 「・・・・・・・・・・」

何しろベルトリッチ監督自ら書いた脚本だ。スーパーマン、返す言葉がない。
「R指定(準成人指定)なら、このままでもやぶさかではありませんが」

 
確かにあんな台詞は子供たちにふさわしくない。審査員の良識はなかなかだ。

だが、R指定では興行成績に影響が出るかもしれない。映画も商売なのである。ところが、配給会社もしたたかだ。どうせ子供の見る映画ではない、成人映画は大人だけに限られる、R指定ならかえってみんなのスケベ心をうずかせて観客も増えるだろう判断した。

   
映倫の希望と配給元の利益が一致した。

かくて「ラスト~」R指定で上映され、スーパーマンの翻訳もそのまま生かされたのであった。

 

 

本文は菊地浩司が20数年前に「プレイコミック」という漫画雑誌に映画翻訳家の舞台裏をコラムとして掲載していた時のものです。本文に一部適切ではない表現がございますことをご了承ください。